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たまにふと思い出す記憶はあるだろうか?

きっと、過ぎ去った日々の中で、ある記憶のほんの1ピースを思い返す時間が日常のあちらこちらに溢れている。

あの頃、毎日馬鹿みたいなことをして笑いあっていた学生生活も、友達と喧嘩してもう取り戻せない関係だと泣いた日も、1日の大半の時間を費やしていた趣味も、どれだけ苦しくても逃げ出さずに夢に向かって駆け抜けた日々も、今となっては頭の中の奥の方に仕舞われてしまっていた。

そんなことに少しの寂しさを感じてしまうが、ただほんのちょっと思い出すくらいがこの先を生きていくのにちょうど良いのかもしれないと、ほっと息をつかせてくれる映画を観た。

Vol.140『ちょっと思い出しただけ』

☆3.8/☆5.0点中

https://choiomo.com/

 

照明スタッフの照生と、タクシードライバーの葉。物語はふたりが別れてしまった後から始まり、時が巻き戻されていく。
愛し合った日、喧嘩した日、冗談を言い合った日、出会った日・・・
コロナ禍より前の世界に戻れないように、誰もが戻れない過去を抱えて生きている。
そんな日々を”ちょっと思い出しただけ”。

 

クリープハイプの尾崎世界観が自身のオールタイムベストに挙げるジム・ジャームッシュの名作映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』に着想を得て書き上げた、新曲『ナイトオンザプラネット』。このクリープハイプの楽曲を受けて『くれなずめ』『君が君で君だ』など、これまで仲間たちとの友情を描いてきた松居大悟監督が描く、監督初となる完全オリジナルラブストーリー。

池松壮亮演じる怪我でダンサーの道を諦めた照生と、伊藤沙莉演じるタクシードライバーの葉。その他タクシーの乗客たちや、2人が行きつけのバーのマスターや常連など個性豊かな登場人物には永瀬正敏、國村隼、尾崎世界観、市川実和子、河合優実、成田凌、ニューヨークの屋敷裕政、大関れいかなど豪華キャストが出演しています。

7月26日を起点とし、2021年のこの日34回目の誕生日を迎えた照生の日常から時を1年、また1年と遡り、照生と葉の恋の始まりや、出会いの瞬間、不器用な2人の二度と戻らない「終わりから始まりの6年間」を丁寧に映し出していく。

終わりから始まりへと、いくつもの7月26日を遡る物語は帰結を知るだけに、かけがえのない時間が過ぎ去った寂しさを覚え、描かれていない残りの364日を思いながらも、過去に縋りつきすぎずその延長線上に立っている今の自分をそっと肯定してくれるような優しさがあり絶妙なタイトルが胸に沁み渡る。

俯瞰で語られる二人の物語は、同じ空の下を生きる私たちの物語でもある。お互いを愛おしいと思っていた時間は紛れもない事実であり、別れてどれだけ時間が経ったとしても忘れはしない。だが、そんな思い出は今の人生に影響を与えるかといえばそんなこともなくて、ただ「ちょっと思い出しただけ」なのだ。

自分自身のちょっとだけ思い出す様な思い出が重ねて浮かび上がり、あの時こうすれば……という思いは人生において避けられない感情だが、その気持ちも含めて今の自分なんだと語らずとも受け止めてくれて、観終わると不思議と寂しさはなく爽やかさが尾を引く。

余白の多さもまた、まるで自分の思い出を振り返ったような感覚へと誘うきっかけとなる。

いつか、この映画を観たことを
ちょっと思い出すのだろう。

※「今日はさぼって映画をみにいく」は毎週火曜日更新予定です。


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テラシマユウカ

「みんなの遊び場」をコンセプトに活動する、テラシマユウカ、ヤママチミキ、ユメノユア、キャン・GP・マイカ、ココ・パーティン・ココ、ユイ・ガ・ドクソン、月ノウサギ、キラ・メイ、チャンベイビー、キャ・ノンの10人からなるアイドルグループ、GANG PARADEのメンバー。 2016年に行われた新生BiSの合宿オーディションに参加し、BiS公式ライバル・グループSiSのメンバーとして活動を始めるが、お披露目ライヴ直後にまさかのグループが活動休止。2016年10月にGANG PARADEへ電撃加入し、 2020年3月よりGO TO THE BEDSとPARADISESの2グループに分裂し活動開始。精力的にライブを実施し、2021年には両グループ合わせて270本ものライブを敢行。 2022年1月1日、満を持して再結成を果たす。 多くを語らない性格ながら強い意志と美学を持ってグループになくてはならない存在に。映画好きが高じて、StoryWriterにてテラシマユウカの映画コラム「それでも映画は、素晴らしい。」の連載スタート。

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