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StoryWriter

映画鑑賞後、作品の世界に引きずり込まれすぎたあげく現実世界に気持ちが戻ってこられない時がたまにあります。

そんな映画と出会えたという喜びと、自分がその世界に存在していないという悲しみが同時に襲ってきて、言葉には言い表せない躁と鬱が混同した気分になってしまいます。

自分自身の生きる現実とかけ離れた作品を特に好む傾向がありますが、必ずしもスタート地点に戻るとは約束されていない感情のジェットコースターに乗っているかの様で、楽しくもあり帰ってこられないスリリングさも感じます。

記憶を辿ってみると、過去最も現実世界に戻って来られなかったのはノーラン監督の『ダークナイトトリロジー』であった気がしますが、やはりゴッサムシティは、決して住みたいとは思わないけれど一歩踏み込んでしまったら簡単に戻ることはできない得体の知れぬ魅力のある街です。

Vol.143『THE BATMAN-ザ・バットマン-』

☆4.5/☆5.0点中

https://wwws.warnerbros.co.jp/thebatman-movie/

 

優しくもミステリアスな青年ブルース。
両親殺害の復讐を誓い、悪と敵対する存在”バットマン”になって2年が過ぎた。ある日、権力者を標的とした連続殺人事件が発生。犯人を名乗るリドラーは、犯行の際に必ず”なぞなぞ”を残していく。警察や世界一の名探偵でもあるブルースを挑発する史上最狂の知能犯リドラーが残した最後のメッセージは…
「次の犠牲者はバットマン」。
社会や人間が隠してきた嘘を暴き、世界を恐怖に陥れるリドラーを前に、ブルースの良心は狂気に変貌していく。リドラーが犯行を繰り返す目的とは一体…?

 

『猿の惑星』シリーズなどのマット・リーヴス監督がメガホンをとり、これまでのバットマンで間違いなく最もエモーショナルであり、最大スケールのアクションと最高危険度の謎解きゲームで世界の嘘をあぶりだす。

『TENET テネット』のロバート・パティンソンが新たにブルース・ウェイン/バットマンを演じ、彼がバットマンとなって2年目の物語であり、社会に蔓延する嘘を暴いていく知能犯リドラーによってブルースの人間としての本性がスキャンダラスにむき出しにされていく様を映し出します。

もともと探偵であったバットマンの原点に立ち返った暗くどっしりと重厚なミステリーであり、狂気と感情の爆発するバットマンは史上最もダークでシリアスな雰囲気が漂い、まるでバットマンに焦点を当てた濃密なドキュメンタリーを観ているかの様な独自のバットマン像を新たにつくり上げ、独特のスタイルとトーンで魅力的な独立したストーリーを生み出した、これまでの歴史を塗り替える不気味で美しい作品です。

これまで我々がスクリーンで目にしてきたものとはかなり違いがありますが、本作は挑戦的でもありながら王道のバットマンストーリーでもあり、冷徹なほどリアリスティック。

ストーリーは、ブルース・ウェインと刑事のジム・ゴードンのパートーナーの関係性を描くところから始まり、バットマン2年目であるブルースの非の打ちどころのないスーパーヒーローになる前の成長過程にいる彼を映し出す。
始まりこそ描かれていませんが変化と成長の過程は多く描かれており、ロバート・パティンソンは完全に自分自身のブルースを作り上げ、過去に何度も描かれてきた、カリスマ的なプレイボーイだと誰もが思っていたブルース・ウェイン像は姿を消し、パティンソンがウェインとして表に出る姿は、何重にもカモフラージュされた不器用な思春期の若者のであり、癒されることのないトラウマによって深く傷つき、身動きが取れなくなってしまっている悲しく脆い人間味のあるブルースがここには存在していて、目が離せなくなってしまいます。

赤と黒の色合いで描かれたゴッサムの彩度と闇のコントラストはモノクロと見紛う程であり、彩度を落とした中でも単調にすることなく壮大で美しく撮影された街並みはゴッサムの奥の奥へと観る者を引き込み、ブルースの心の深い闇に飲み込まれていくかの様。

今にも闇に堕ちて消えてしまいそうな絶望感のあるブルース・ウェインの儚く危なげな眼差しの中にも、揺らぐことのない優しさと愛が息をしていて、まだまだ未完成なバットマンに愛しさが溢れ正義と悪が入り混じった不器用さと信じられないくらいに美しい、影の混じった横顔に魅了され虜になってしまいます。

また、社会に見捨てられた存在のポール・ダノ演じる観る者を不安にさせ衝撃的で説得力のあるヴィラン、リドラーは我々にも身近で苦しみを直に感じる皮肉的な存在であり、世の中に不満を抱き、街と自分の状況に腹を立てている。リドラーが信じる正義とバットマンの追い求める正義の根底は紙一重であり、ほんのちょっとした違いからくる正義と悪の違いに、傷を負いながらも社会の人々に寄り添う道を選んだバットマンの正義もひしひしと感じ、本当の強さや優しさを学びます。

『THE BATMAN-ザ・バットマン-』は、思わず息を呑むほどに心を奪い去られ、夢見心地になってしまう程に美しく、それでいて恐ろしくも現実的で説得力のある完璧な心理スリラーであり、ヒーロー映画の枠組みを超えた新たなバットマンの誕生作品だ。

※「今日はさぼって映画をみにいく」は毎週火曜日更新予定です。


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テラシマユウカ

「みんなの遊び場」をコンセプトに活動する、テラシマユウカ、ヤママチミキ、ユメノユア、キャン・GP・マイカ、ココ・パーティン・ココ、ユイ・ガ・ドクソン、月ノウサギ、キラ・メイ、チャンベイビー、キャ・ノンの10人からなるアイドルグループ、GANG PARADEのメンバー。 2016年に行われた新生BiSの合宿オーディションに参加し、BiS公式ライバル・グループSiSのメンバーとして活動を始めるが、お披露目ライヴ直後にまさかのグループが活動休止。2016年10月にGANG PARADEへ電撃加入し、 2020年3月よりGO TO THE BEDSとPARADISESの2グループに分裂し活動開始。精力的にライブを実施し、2021年には両グループ合わせて270本ものライブを敢行。 2022年1月1日、満を持して再結成を果たす。 多くを語らない性格ながら強い意志と美学を持ってグループになくてはならない存在に。映画好きが高じて、StoryWriterにてテラシマユウカの映画コラム「それでも映画は、素晴らしい。」の連載スタート。

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