テラシマユウカの映画コラム Vol.151『パリ13区』

ハリウッド映画ロケ地のオンライン訪問や名作映画の再上映や野外上映など、コロナ禍ならではの映画イベントが最近はよく実施されていますが、何故かいつもタイミング悪くそのイベントが終わった直後にその存在を知ることが多いです。

ただ席に座って”観る”というだけの映画だけでなく、体験型映画イベントがあらゆる工夫を凝らして誕生してきた時代の中で、この映画コラムでもただ映画をご紹介するだけでなくそういったイベントのレポなども書いてみたいなという願望があります。

アンテナを常々張り巡らせて、新作映画だけではない、あらゆる映画体験を積極的にしていきたいものです。

Vol.151『パリ13区』

☆3.6/☆5.0点中

舞台となる13区は高層住宅が連なる再開発地区でアジア系移民も多く暮らし、古都のイメージとは全く違う独創的で活気に満ちている、まさに現代のパリを象徴しており、洗練されたモノクロームの映像美で2021年の13区で、愛の在り方について問いかけます。

カンヌ国際映画祭パルムドール受賞『ディーパンの闘い』や、『君と歩く世界』『預言者』『ゴールデン・リバー』などで知られる今年70歳を迎える鬼才ジャック・オーディアール監督による恋愛群像劇であり、『燃ゆる女の肖像』で一躍話題となったセリーヌ・シアマと、若手注目監督・脚本家のレア・ミシウスと共同で脚本を手がけている為、これまでのジャック・オーディアール監督の撮ってきた硬派な作品とは違った印象を受けます。

自分自身が何を求め日々を過ごしているのかはっきりしないまま生きている男女4人による、今時の日本の恋愛映画にも共通する部分のある大人の恋愛模様が描かれる。

感情を露わにすることなく何を思っているのか分からない人物像や心理描写は今時風であり、初めはよくある若気の至りのような話にも捉えられます。けれども、登場人物のお互いに好きかどうか分からないけどとりあえずやってみるという性に対する感覚は、彼らが自分に正直に生きているようにみせて、掴み所のない話になっていながらも、ストーリーとしての芯がしっかりと存在し、人と人との関わりで生まれる細やかな感情の変化が繊細に表現されていました。

男女が恋に落ちるところから始まる分かりやすいドラマチックな恋愛話ではない、この2人の関係は一体なんだろうと考えさせられる時間が続き、出会って愛し合って、すれ違って傷ついて、何度もそうやって繰り返し、何を求めているのか気づくことはとても難解で、誰だって自分自身の全てを理解できていなくて、だからこそ寄り添ってくれるひとを求めてしまうのかもしれません。

モノクロ映画で映し出すからこそ、登場人物ひとりひとりの価値観や、それぞれが抱えている不安と孤独を、感情的にではなく白黒の濃淡で感じ取れます。性に入り乱れた白と黒の身体の交わりは美しく、的確な言葉では言い表したくない魅力が詰まっている作品です。

※「今日はさぼって映画をみにいく」は毎週火曜日更新予定です。

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