この頃は空の情緒が不安定で、梅雨の気配を感じる季節となってきました。
雨の日は気圧に機嫌が左右されるので苦手ですが、映像で見る雨の表現は作る人によって違いが大きく、その作品の全てを体現しているかのようで映画の中でも特に注目して見てしまうポイントでもあります。
MV撮影の日などよく雨天のことが多いのですが、雨を主役にした撮影はしたことがないので、いつかしてみたいものです。
Vol.153『流浪の月』
☆4.1/☆5.0点中
https://gaga.ne.jp/rurounotsuki/
雨の夕方の公園で、びしょ濡れの10歳の家内更紗に傘をさしかけてくれたのは19歳の大学生・佐伯文。引き取られている伯母の家に帰りたがらない更紗の意を汲み、部屋に入れてくれた文のもとで、更紗はそのまま2か月を過ごすことになる。が、ほどなく文は更紗の誘拐罪で逮捕されてしまう。それから15年後。傷物にされた「被害女児」とその「加害者」という烙印を背負ったまま、更紗と文は再会する。が、更紗のそばには婚約者の亮がいた。一方、文のかたわらにもひとりの女性・谷が寄り添っていて…
2020年の本屋大賞を受賞した凪良ゆうの同名ベストセラー小説を基に、『フラガール』『悪人』『怒り』の李相日監督が実写化した人間ドラマ。公園で雨に濡れた女児を保護するも”誘拐罪”で逮捕された青年と、”被害女児”とされた少女が、15年後に再会し、許されないふたりの物語が再び動き出す。
誘拐事件の“被害女児”だった女性を広瀬すずが、その事件の“加害者”とされた男性を松坂桃李が演じ、共演に横浜流星、多部未華子 、趣里、柄本明らが出演する。
撮影監督には『パラサイト 半地下の家族』『バーニング 劇場版』を手掛けた韓国映画界のレジェンド、ホン・ギョンピョ。『キル・ビル Vol.1』『三度目の殺人』など、世界を股にかけて活躍する美術・種田陽平、NODA・MAPや、2021年東京オリンピック開会式のダンスパフォーマンスへの楽曲提供も話題の音楽・原摩利彦らの国境を越えた才能の競演も見どころとなっています。
15年前の事件以来、更紗と文の心はふらふらと流浪のように彷徨い、世間で認識されている事実に対して、2人だけが知っているひとつの真実。それはまるで毎日見た目が変わる月のように、照らされていない部分はいつだって変わらず球体のままであり、世間で語られる事実が様々であったとしても真実は一つであると影の部分である理解されない事実の歯痒さがひしひしと感じ取れます。
作品を通して統一された青味のある色彩のトーンや、匂いが伝わってくるほどの瑞々しい緑の風景や頻繁に現れる澄んだ水の輝き、雲の隙間から覗く月明かりなど、撮影監督ホン・ギョンピョによる素晴らしい映像はどこかパラサイトを彷彿とさせます。
次第に明かされていく話の順序や構成もよく練られており、人間であるということ、社会の枠組みからはみ出してしまいながらもこの世の中で生きることの難しさが痛いほどに伝わってくる。ひとりひとり歪な形をしている人間の自分自身の在り方なんていうものは人によって変化するものであるのに、他人を完全に理解することはできなくて、更紗と文の関係を愛と一般的に認められないことが儚く美しく表現されているところからも、理解しようとする、知ろうとする姿勢の大切さを学びます。
センシティブな問題を扱っているものの、その問題に対して曖昧にしている部分もあり観る人によって受け止め方の違いは大きくありそうな作品ですが、役者さんたちの迫真の表情や間、純文学ぽさのある語りやトーンなど、鑑賞後に幾度も思い出して反芻して、深く長く、静かに余韻を愉しむ時間を味わうことのできる作品でした。
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