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StoryWriter

年を追うごとにアニメーション映画から遠ざかってしまっている気がしますが、薄い記憶を手繰り寄せてみると、初めて映画館で見た作品はアニメーション映画だったなと思い返します。

蓋を開けてみるとまた在り方は様々ですが、アニメーション作品はターゲットになる年齢層が幅広く、全世代それぞれの方向に向けたメッセージ性が映画の中でも1番多く含まれているのかもしれません。

Vol.155『犬王』

☆3.6/☆5.0点中

https://inuoh-anime.com/

 

室町の京の都、猿楽の一座に生まれた異形の子、犬王。周囲に疎まれ、その顔は瓢箪の面で隠された。
ある日犬王は、平家の呪いで盲目になった琵琶法師の少年・友魚と出会う。名よりも先に、歌と舞を交わす二人。 友魚は琵琶の弦を弾き、犬王は足を踏み鳴らす。一瞬にして拡がる、二人だけの呼吸、二人だけの世界。
「ここから始まるんだ俺たちは!」
壮絶な運命すら楽しみ、力強い舞で自らの人生を切り拓く犬王。呪いの真相を求め、琵琶を掻き鳴らし異界と共振する友魚。乱世を生き抜くためのバディとなった二人は、お互いの才能を開花させ、唯一無二のエンターテイナーとして人々を熱狂させていく。頂点を極めた二人を待ち受けるものとは――?
歴史に隠された実在の能楽師=ポップスター・犬王と友魚から生まれた、時を超えた友情の物語。

 

『夜は短し歩けよ乙女』『映像研には手を出すな!』の湯浅政明監督が、室町時代に実在し、人々を熱狂させた能楽師【犬王】をポップスターとして華やかに逞しく描く最新作。

犬王とは、室町幕府三代目将軍足利義満の庇護を受けたとされる近江猿楽比叡座の太夫、のちの道阿弥のことであり、当時、かの観阿弥・世阿弥と人気を二分していたといわれていますが、何故かほとんど記録が残っていないことでも知られています。

原作は『平家物語』の現代語全訳を手掛けた古川日出男の『平家物語 犬王の巻』。キャラクター原案の漫画家・松本大洋は湯浅監督と「ピンポン」以来5年ぶり2度目のタッグであり、脚本にはドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』など話題作を連発する野木亜紀子、音楽を『あまちゃん』『花束みたいな恋をした』の大友良英が手掛けるなど、トップクリエイターたちが集結。

また声の出演としては、女王蜂のアヴちゃん、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊など豪華キャストが担当し、各キャラクターに命を吹き込んでいます。

今作の特筆すべき点はこの豪華スタッフ・キャスト陣のパフォーマンスにあります。
アニメーションの完成度は非常に高く、盲目の友魚が音とイメージで微かに感じる世界や、記憶や手で対象を感じ取る描写方法、見せ場となる犬王たちのダンスや演奏など全身を使ったパフォーマンスシーンの作画のハードルの高さや、それを捉える縦横無尽のカメラワーク、突如挟み込まれるグロテスクな表現など、映像に費やされた時間や才能の多さを感じ取れる映像となっています。

また、アヴちゃんの存在感のある色気と狂気が混在した変幻自在な歌声は人を惹きつける力を持っており、カリスマ性のある犬王というキャラクターに説得力を持たせる無くてはならない要素となっています。

ただ、テーマとして特に重要なミュージカルパートの曲自体は同じメロディとフレーズの繰り返しのキャッチーさがあり、犬王と友魚が魅せる新しい雅楽の表現という斬新な設定の中で典型的なロックの域を出ておらず、もっと尖った楽曲でも良かったのではないかと感じます。

“名前”というキーワードを使って友魚(友有・友一)と犬王の2人が自分の人生を掴み取っていく物語ですが、時空を超えて現代まで描かれる彼らの友情の、出会いから意気投合してバディとして歩いていく道のりのドラマの関係性描写の希薄さも少し気になってしまいます。

ミュージカル作品というものは基本的に台詞の代わりに歌で物語が展開され、キャラクターそれぞれの感情やストーリーが歌として本人から語られるものですが、今作はそのミュージカルシーンがまるでロックフェスの様なライヴを伝えるパートとなっているため、音楽の中で物語はほぼ進まないもののスクリーンを通してライブに熱狂する気持ちよさが存在しています。

滅びゆく敗者の物語である平家物語の忘れ去られてしまった死者の声を掬い上げ、奪われてしまった物語の中に生きる者たちの怒りや悲しみを歌にのせて思いを馳せる、犬王という知られざる能楽師の熱い物語でした。

※「今日はさぼって映画をみにいく」は毎週火曜日更新予定です。


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テラシマユウカ

「みんなの遊び場」をコンセプトに活動する、テラシマユウカ、ヤママチミキ、ユメノユア、キャン・GP・マイカ、ココ・パーティン・ココ、ユイ・ガ・ドクソン、月ノウサギ、キラ・メイ、チャンベイビー、キャ・ノン、ナルハワールド、アイナスター、カ能セイの13人からなるアイドルグループ、GANG PARADEのメンバー。 2016年に行われた新生BiSの合宿オーディションに参加し、BiS公式ライバル・グループSiSのメンバーとして活動を始めるが、お披露目ライヴ直後にまさかのグループが活動休止。2016年10月にGANG PARADEへ電撃加入し、 2020年3月よりGO TO THE BEDSとPARADISESの2グループに分裂し活動開始。精力的にライブを実施し、2021年には両グループ合わせて270本ものライブを敢行。 2022年1月1日、満を持して再結成を果たす。 多くを語らない性格ながら強い意志と美学を持ってグループになくてはならない存在に。映画好きが高じて、StoryWriterにてテラシマユウカの映画コラム「それでも映画は、素晴らしい。」の連載スタート。

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