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StoryWriter

1年にどのくらいの本数映画を観ているか統計を取ろうと、Filmarksなど鑑賞記録のできるアプリをいくつかダウンロードしてみたり、iPhoneのメモで新作旧作どちらも含めて今年鑑賞した映画のタイトルを書き出したり、発券したチケットをできるだけ保管したり……新しい年を迎えるたびに様々な方法を試しながらチャレンジしているわけですが、大抵1年の半分もすぎるとすっかりその習慣が抜け落ちてしまい一生何本観たかわからず仕舞いで年末を迎えてしまいます。

6月も下旬に入り半年が終わろうとしていますが、例年通り記録することを忘れてしまっていることをハッと思い出し精一杯記憶を辿っている最中です。

特にFilmarksが鑑賞済み作品と興味のある作品をすぐにマークできるので圧倒的に便利なのですが、自分の中の変な頑固すぎるこだわりがでてしまい、マークした欄に表示される映画ポスターの色合いのグラデーションを統一感あるように綺麗に並べたくなって素直に観た順に並べられなかったりしてしまいます。

2022年の下半期だけでも、このずっと密かに抱えている目標をちゃんと忘れずに習慣化させて達成したいものです。

Vol.157『FLEE フリー』

☆3.9/☆5.0点中

 

アフガニスタンで生まれ育ったアミンは幼い頃、父が当局に連行されたまま戻らず、残った家族とともに命がけで祖国を脱出した。
やがて家族とも離れ離れになり、数年後たった一人でデンマークへと亡命した彼は30代半ばとなり研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。
だが彼には恋人にも話していない20年以上も抱え続けていた秘密があった。
あまりに壮絶で心を揺さぶられずにはいられない過酷な半生を、親友である映画監督の前で彼は静かに語り始める…。

 

本年度アカデミー賞にて、史上初となる国際長編映画賞・長編ドキュメンタリー賞・長編アニメーション賞の3部門同時ノミネートの快挙を成し遂げた、デンマークほか合作によるドキュメンタリー映画『FLEE フリー』。

英題であるFLEEとは危険や災害、追跡者などから安全な場所へ逃げるという意味であり、主人公のアミンをはじめ周辺の人々の安全を守るためにアニメーションで制作され、いまや世界中で大きなニュースになっているタリバンとアフガニスタンの恐ろしい現実や、祖国から逃れて生き延びるために奮闘する人々の過酷な日々、そしてゲイであるのひとりの青年が、自分の未来を救うために過去のトラウマと向き合う物語をドキュメンタリーとアニメーションの両方で描きます。

アニメーションで見せるインタビューシーンはプライバシーを守ると言う点でも効果的ですが、それだけではなく絵のパラパラマンガのようにカクカクと動き少なく表現される映像や、光と影のコントラストなど、難民となったアミン達の不安な心理をより明確にします。

また、ところどころ実際の映像も織り交ぜながら描くことによりアニメーションによる主観的な視点と当時の記録映像による客観的な視点のふたつが存在し、難民にふりかかる災難の数々に対しての恐怖感を我々に示しリアリティを煽っていく演出となっています。

生まれた地を追われ、言葉の通じない国で隠れながら生活し、警察に見つかると金銭を巻き上げられる。恋人に家族のことを打ち明けると最初は同情してくれたものの、衝突を生み、真実をバラされないかと怯えながら過ごすことになる。物心ついた頃から難民として生活し、家族以外の誰も信用できずに生きてきて、なぜアミンが長年自身の物語を人に話そうとしなかったのか、際立って過激でセンシティブな表現をとっているわけではないが、想像を絶する経験を誰とも共有できず、たった1人で抱え込まなければいけないという恐怖と、人を信じれない苦悩をひしひしと感じます。

映画の冒頭でラスムセン監督が投げかける「君にとって祖国とは?」という問いに対する「そこにいることが出来て、よそに行かないで住む場所。一時的でなくずっといられる場所。」というアミンの答えが印象的であり、映画を見終わった時にこの言葉の持つ意味が観客の心を深く突き刺し頭から離れなくなります。

難民として亡命することの苦難をブレずに、打ち出し続けるシンプルなテーマながら、アミンという1人の人間がこれまで語ることのできなかった自身の体験を言葉にしていくことで次第に心を開いていく様子を描いた作品でもあります。

※「今日はさぼって映画をみにいく」は毎週火曜日更新予定です。


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テラシマユウカ

「みんなの遊び場」をコンセプトに活動する、テラシマユウカ、ヤママチミキ、ユメノユア、キャン・GP・マイカ、ココ・パーティン・ココ、ユイ・ガ・ドクソン、月ノウサギ、キラ・メイ、チャンベイビー、キャ・ノン、ナルハワールド、アイナスター、カ能セイの13人からなるアイドルグループ、GANG PARADEのメンバー。 2016年に行われた新生BiSの合宿オーディションに参加し、BiS公式ライバル・グループSiSのメンバーとして活動を始めるが、お披露目ライヴ直後にまさかのグループが活動休止。2016年10月にGANG PARADEへ電撃加入し、 2020年3月よりGO TO THE BEDSとPARADISESの2グループに分裂し活動開始。精力的にライブを実施し、2021年には両グループ合わせて270本ものライブを敢行。 2022年1月1日、満を持して再結成を果たす。 多くを語らない性格ながら強い意志と美学を持ってグループになくてはならない存在に。映画好きが高じて、StoryWriterにてテラシマユウカの映画コラム「それでも映画は、素晴らしい。」の連載スタート。

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