こんにちは、テラシマユウカです。
9月を迎え、秋の予兆を少しずつ感じるようになってきました。
四季の中ではいちばん好きな季節、偏食な私も大人になるにつれて秋の味覚を理解できる様になってきた気がします。
なんとなく始まってなんとなく終わってしまう秋を逃さない様に楽しんでいきたいなと、まだ少し暑さが残っていても我慢してしまいます。
Vol.168『NOPE/ノープ』
☆3.9/☆5.0
舞台は南カルフォルニア、ロサンゼルス近郊にある牧場。亡き父から、この牧場を受け継いだOJは、半年前の父の事故死をいまだに信じられずにいた。形式上は、飛行機の部品の落下による衝突死とされている。しかし、そんな”最悪の奇跡”が起こり得るのだろうか?何より、OJはこの事故の際に一瞬目にした飛行物体を忘れられずにいた。牧場の共同経営者である妹エメラルドはこの飛行物体を撮影して、”バズり動画”を世に放つことを思いつく。やがて起きる怪奇現象の連続。それらは真の”最悪の奇跡”到来の序章に過ぎなかった……。
人種差別という根深い問題を斬新な視点から捉え、アカデミー賞4部門にノミネートされた『ゲット・アウト』。意外性に富んだ展開と壮絶なバイオレンスを織り込み、格差社会のデフォルメを見せつけた『アス』。
スリラーというジャンルに社会性を結びつけ、黒人差別の歴史や格差社会の社会構造をストーリーに組み込み、全世界を騒然とさせてきた唯一無二の突出した才能を持つジョーダン・ピール監督の3年ぶりとなる待望の新作『NOPE/ノープ』がついに公開となりました。
主人公OJには、監督の出世作『ゲット・アウト』での熱演が記憶に新しくアカデミー主演男優賞にノミネートされたダニエル・カルーヤ。シンガーとして活躍する一方で『ハスラーズ』『バズ・ライトイヤー』など着実にキャリアアップしているキキ・パーマーが自由奔放なエメラルド役を演じています。
また、広大な風景に浮かぶ妖しき飛行物体をより奥行きのある映像に収めるため、『TENET テネット』や、『ダンケルク』ではアカデミー撮影賞にノミネートされたクリストファー・ノーラン監督御用達の撮影監督ホイデ・ヴァン・ホイデマを起用し、南カルフォルニアの雄大な自然や奥行きのある夜中の風景をカメラに収め不気味さを最大限に引き立てた映像が完成されています。
予告編を見る限り売り込んでいる内容は、父の死の原因と思わしき空から降りてきた謎の飛行物体の真相に迫る物語であり、襲ってくるそれの正体もなんとなく察せるもので、ジョーダン・ピールのこれまでの2つの作品とは毛色が違う印象を受けますが、予告編で手がかりを与えることで本来本編に描かれていることを巧妙に隠しており、わかりやすい単純な我々の予想を大きく裏切ってくれる内容となっていました。
彼の作品の特徴として、テーマ性を具体的に明らかにせず観客側が受け取って噛み砕く考察しがいのある魅力と、ホラー・スリラーとしての恐怖の魅力が共存した、ただ観るだけでなく試されているような感覚をおぼえる作風であり、貫かれた美学のあるものですが、今作は問題視させたい皮肉的な部分と社会性のポイントがこれまでより少し弱く、ホラーとしてもお決まりのジャンプスケアなど用いられておらず緊張感は薄めの様に感じました。
ですがその中でも、作品を生み出すたびに現代の黒人らが抱える問題を浮き彫りにするジョーダン・ピールらしいテーマが今作にも幾重にもちりばめられており、映画業界含むエンタメに対する皮肉と愛を訴えると同時に、彼のこれまでの作品中でのキーワードでもある”トラウマ”が今作も反映されており、登場人物たちがそれぞれに抱える重い感情を通してより一層深い問題と風刺を与えてくれます。
ジョーダン・ピールの生み出す悪夢的体験は、新たな社会問題から生まれた恐怖と向き合う必要性を感じるのです。
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