こんにちは、テラシマユウカです。
先日、漫画家ごめんさんと今泉力哉監督とのトークショーに出演させて頂きました。
2時間ほどお話しをしていたのですが、とっても時間の流れ方が変わってしまったかのような心地のよい空間でした。
さまざまな話題がありましたが「アパートメント」というテーマをもとにして3人の生活のことや、漫画・映画・作詞という3通りの創作に携わる人間の思考を共有していく過程は、まるで全部見透かされているんじゃないかと錯覚してしまうように共感の多い時間でした。
とっても素敵な日だったので、またこんな日が来るといいな…とひそかに願っています。
Vol.176『窓辺にて』
☆4.7/☆5.0
フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が担当している売れっ子小説家と浮気しているのを知っている。しかし、それを妻には言えずにいた。また、浮気を知った時に自分の中に芽生えたある感情についても悩んでいた。ある日、とある文学賞の授賞式で出会った高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれた市川は、久保にその小説にはモデルがいるのかと尋ねる。いるのであれば会わせてほしい、と…。
稲垣吾郎主演×今泉力哉監督、創作と恋愛を軸に完全オリジナル脚本で一筋縄ではいかない繊細な人間たちの心の機微を描き出した大人の群像劇。
夫婦の一方が浮気してもう一方が怒らなかったら、愛情はないことになるのか?と監督自身が過去に自問したことをきっかけに脚本を書かれたそうです。
妻の浮気に気付きながらも何も感じない自分にショックを受けている主人公が様々な人々に関わり、そんな人々が抱えている問題にも向き合っていく中で自分なりの答えを見出していくという大人のラブストーリーであり、男女の不倫や浮気といった問題が物語のベースにはありつつも、恋愛映画といってしまうより、恋愛をきっかけとして、人間模様を本来生きている温度感のまま描き出している”人間”そのものの映画なのではないかと感じます。
これまでの今泉監督作品には自分の生活のすぐそばにいる身近な人間の中にその物語が生きているというような感覚を抱いてきました。しかし、今作はその感覚とは違い、まるで自分自身の心を見透かされて描かれたんじゃないかと、ひとつひとつの悩みや思考・紡がれていく言葉に”わたしも知っている感情だ”と他人事ではなく自分事のように思えてしまう感覚があります。
今泉監督の創り出す世界はとても優しくって温かさがあり、登場人物の抱える悩みや問題を通してダメな人間でもそのままでいいんだと、どんな人間でもありのままで美しく生きていけると心がやわらかく解けていく様な気がしていましたが、これまでとは違う自分事の様な物語は鋭く深く突き刺さり、胸がきゅっと苦しくなってしまいます。
茂巳が妻の浮気を知ってもショックを受けない温度感の低めな恋愛が描かれており、それは喜怒哀楽の感情がないわけでもなく、大きな感情の揺れがあるときほど表面に出にくくなってしまうところもあったり、感じたことを他人にわかる様に表現しなければいけない、浮気されたら普通は怒らなければいけない、冷めた人間と言われてしまったりする少しひねくれている人間に対してちょっとコミカルに、同じ悩みを持つ人は多くはないかもしれないけれど確実にいるんだよとそっと肩に手をおいてくれるようです。
人それぞれいろんな愛情表現があり、誰かに問いを投げかけても明確な答えは出なくて、各々違う答えを導きだすために道を歩んでいく。私の答えを出す時間を作ってくれているかのような間がしっかり存在していて、感情を押し付けない物語は自分自身をじっくりと見つめることができます。
また、愛情を受け取るには自分の器や心の余白も必要であり、手に入れる・手放すということについてもポジティブな選択のひとつとして提案してくれる、自分の中での答えを導いていく道筋を窓から差し込む柔らかな光の様に照らしてくれる、きっかけをもらうことのできる作品です。
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