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こんにちは、テラシマユウカです。

2023年は東京のミニシアターを制覇する、というひとつ小さな目標をひっそりと掲げており、好調なスタートを切れている1月となっています。

もともと映画はしっかり映画館で観たい派なので、不朽の名作をどうしてもスクリーンで目に焼き付けたく、どこかでなにか再上映されていないかとFilmarksをあさる日々です。

ちゃんとサーチしてみると意外といろんなところで日々再上映されているのだなと気づきがあり、二本立てなどもあるので、いかにして映画をまわすかタイムスケジュールを考えるのが楽しみとなっています。

今月は既に20本ほど観れているので、このままコツコツと積み重ねていきたいなと思っています。

Vol.187『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

☆4.0/☆5.0

https://shesaid-sononawoabake.jp/

 

2017年、ニューヨーク・タイムズ紙が報じた1つの記事が世界中で社会現象を巻き起こした。
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『恋におちたシェイクスピア』『ロード・オブ・ザ・リング』『英国王のスピーチ』など数々の名作を手掛けた映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ・性的暴行事件を告発したその記事は、映画業界のみならず国を超えて性犯罪の被害の声を促し、#MeToo運動を爆発させた。

 

本作が描くのは「#MeToo運動」の発端となったあの報道。

90年代に一世を風靡した映画プロダクション「ミラマックス」の創業者であり、ハリウッドで絶大な影響力を持っていた映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが2017年、何十年にもわたって多くの女優やスタッフに性的暴力を振るっていたことが公で大々的に発覚した事件。

その事件を報道したのがニューヨーク・タイムズの2人の女性記者、ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターでした。

2人が取材を進める中で、ワインスタインは過去に何度も記事をもみ消してきたことが判明し、更に被害にあった女性たちは示談に応じていて証言すれば訴えられるため、声をあげられないままでいました。問題の本質は性加害者を守る法のシステムと業界の隠蔽構造だと知った記者たちは調査を妨害されながらも信念を曲げず、証言を決意した勇気ある女性たちと共に突き進みます。そして、遂に数十年にわたる沈黙が破られ、真実が明らかに。

本作はその2人自身が当時の状況を執筆した『その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』という本を映画化したものであり、『それでも夜は明ける』『ムーンライト』の製作陣が集結。
巨大権力に挑む2人の女性記者を、2度のアカデミー主演女優賞ノミネートの『プロミシング・ヤング・ウーマン』のキャリー・マリガンと『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』のゾーイ・カザンが演じました。

映画としては安易に楽しめる娯楽作品とは違い、関係者への聞き込みが大部分を占め残りは記事の執筆という大胆な構成であり、派手な演出やBGMもなく淡々とストーリーが進行していきます。原作がノンフィクションであることは前提ではありますが、一切の物語性を排除して作られておりこの事件の告発記事が発行されたのが2017年とまだ日が浅いため原作に脚色を加えることなく、この恐ろしい事件の全貌をありのまま正確に、かつ強烈に観客の目に焼き付けることとなります。

上映時間の約8割を事件の被害者であり証言をしてくれる人物探しに費やしますがとにかく見つからず、過去の性的被害によるトラウマから話せない女性、ワインスタインとの示談により一切の証言を禁止された不平等な契約を結んでしまった女性など、取材を進めるにつれて多く現れ、ミーガンとジョディはアメリカや国外をあちらこちらと飛び回り取材を断り続けられることとなり、確かに事件が起きているのに証言が集まらない記者2人の苦悩を通して性被害報道の難しさや被害を受けた女性たちが声を上げることの難しさ、声をあげてもすぐに掻き消されてしまうおかしな社会のシステムが鮮明に映し出されています。

記者2人の視点からの性被害を受けた女性たちの証言のみで事件当時の回想シーンなども描かれず、物語の最重要人物であり加害者であるワインスタインの顔が終始見えないままで電話越しでしか登場せず、性加害者を守る法のシステムの問題性とこの作品のテーマが強く現れています。

エンターテインメントとして気軽に楽しめるものではありませんが、歴史に残るおぞましい事実とそれが明るみになったことによって巻き起こった#MeToo運動を肌で感じ、知っておくべきことをじっくり見つめるための作品でした。

※「今日はさぼって映画をみにいく」は毎週火曜日更新予定です。


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Vol.1 『ハウス・ジャック・ビルト』
Vol.2『ピアッシング』
Vol.3『凪待ち』
Vol.4『Diner ダイナー』
Vol.5 『劇場版 Free!-Road to the world-夢』
Vol.6『トイ・ストーリー4』
Vol.7『チャイルド・プレイ』
Vol.8『アンダー・ユア・ベッド』
Vol.9『存在のない子供たち』
Vol.10『永遠に僕のもの』
Vol.11『ゴーストランドの惨劇』
Vol.12『惡の華』
Vol.13『アス』
Vol.14『人間失格 太宰治と3人の女たち』
Vol.15『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
Vol.16『アナベル 死霊博物館』
Vol.17『JOKER』
Vol.18『クロール-凶暴領域-』
Vol.19『ボーダー 二つの世界』
Vol.20『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』
Vol.21『マチネの終わりに』
Vol.22『グレタ GRETA』
Vol.23『テッド・バンディ』
Vol.24『ドクター・スリープ』
Vol.25『マリッジ・ストーリー』
Vol.26『カツベン!』
Vol.27『ラスト・クリスマス』
Vol.28『屍人荘の殺人』
Vol.29『パラサイト 半地下の家族』
Vol.30『シライサン』
Vol.31『ペット・セメタリー』
Vol.32『ジョジョ・ラビット』
Vol.33『his』
Vol.34『犬鳴村』
Vol.35『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』
Vol.36『ミッドサマー』
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Vol.38『スキャンダル』
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Vol176. 『窓辺にて』
Vol.177『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』
Vol.178『RRR』
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Vol.180『ザ・メニュー』
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Vol.185『ケイコ 目を澄ませて』
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テラシマユウカ

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