こんにちは、テラシマユウカです。
はやいもので3月にはいり、朝晩はまだすこし冷え込みますが、すっかり春の陽気が漂いはじめてきました。
まず始めの一歩めとして、ついに家にあるいちばんあったかいコートをクローゼットにしまってしまいました。
冬が好きと自覚してはいますが、春の訪れは花粉症に苦しみながらもついウキウキしてしまいます。
ジャケットのセットアップを着こなせる人間になるのが、今年の春のささやかな目標です。
Vol.194『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
☆4.2/☆5.0
経営するコインランドリーに監査が入り、国税局からイチャモンをつけられ、税金の申告をやり直さなければならなくなったエヴリン。
故郷の中国からエヴリンの住むアメリカへやって来た父親は、相変わらず頑固で介護も大変。娘のジョイは元々反抗的な上に、恋人のベッキーの存在を理解しない母親に不満を抱いている。夫のウェイモンドは優しいが、優柔不断で頼りにならない。
そんな中、国税庁で役人に絞られていると、突然夫が豹変。別の宇宙のウェイモンドだと名乗る彼はエヴリンに、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と宣告!
まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ!
カンフーの達人である別の宇宙の〈私〉の力を得たエヴリンの全宇宙を舞台にした闘いが幕を開ける——!
アカデミー賞の最有力で大本命。
本年度アカデミー賞最多の10部門11ノミネート、他にもゴールデン・グローブ賞など計228受賞495ノミネートで賞レースを爆進中。
インディペンデントスタジオとしては、異例中の異例であるメジャースタジオ級大ヒットを達成。現在も日々記録を塗り替えている本作は、家族の問題に悩み赤字コインランドリーの経営に頭を抱えるフツーのおばさんが、新たなヒーローとして世界を救うという、全人類が初めて体験するアクション・エンターテインメントを完成させた。
数々のオリジナリティあふれる魅惑的な作品を世に送り出し、常に新しい世界の面白さを提供し続けて映画ファンの絶大なる信頼を獲得してきた人気スタジオA24。本作はA24の中でも「一体何を見せてくれるのだろう?」という、未知の世界へと我々を誘ってくれる予感が一段と強く感じ取れます。
監督を務めるのは、死体と共にサバイバル生活を送り無人島から脱出するという奇想天外映画『スイス・アーミーマン』を世に送り出したダニエル・クワンとダニエル・シャイナートのコンビ、”ダニエルズ”。
エヴリンを演じるのは、『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』で華麗なるハリウッドデビューを成し遂げて以来、アクション作品で存在感を放つミシェル・ヨー。そしてエヴリンの夫ウェイモンドには『グーニーズ』『インディー・ジョーンズ/魔宮の伝説』などで子役だったものの、長らく俳優業を離れ裏方として活躍していたキー・ホイ・クァンが本作で完全復帰。
昨今よく耳にする”マルチバース”を用いた奇想天外な家族の物語ですが、多元宇宙とも呼ばれるこの概念は、私たちの住む宇宙と別にまた別の宇宙が存在していて、もう1人の自分が自分とは別の人生を送っているかもしれないというものである。今やマルチバースは一般的なカルチャーとなり、別のユニバースにいる自分を探し求めるといったストーリーはアメコミ映画などあちこちでよく見られるようになりました。
コインランドリーの経営と家族の問題に悩む主人公がマルチバースに存在する自分と融合し、全宇宙に混沌をもたらす悪との戦いに挑む姿を気合の入ったアクション演出で描く。数多に登場するマルチバースに更に複雑なエッセンスを加えながら、超ヘンテコでちょっぴりキモくてバカバカしいやり取りで笑わせてくれる。
バースジャンプや一風変わったルール設定の数々、激しい格闘シーンの中でも小道具を使った戦闘の面白さ。極め付けには、指が10本の巨大なソーセージになっている別次元のエヴリンなど、視覚効果や映像表現のエンタメ的な面白さが独創性豊かにあり、頭がこんがらがりそうになるくらい入り組んだ世界を自然と飲み込みやすく誘導してくれます。
ストーリーとしては実直に”愛”を描いた普遍的なテーマであり、厳しい世界に生きているとマルチバースを通して現実から逃避して別の宇宙を覗き見ることができるというのは実に魅力的なことです。自分が選ばなかった道について考え、自身の可能性を知ったことで枝分かれした人生のすべてを行く先々で取り入れてしまうと、それがなにもかも無意味であるという奈落の底を垣間見てしまう。だが、決してそれは絶望的なことではなく、自分の弱さを隠すでもなく心の内を曝け出し、闇よりも優しさを選ぶことで新たな希望を与えてくれるストーリーとなっています。
時間を追うごとに心地よく、心がほぐれていくような、これまで無数に描かれてきた愛というテーマの真髄をみたような気がする作品でした。
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