こんにちは、テラシマユウカです。
18時、ふと窓の外をみると既に陽が落ち始め深く濁った青色の空に秋を感じる頃合いとなってきました。
うだるような暑さが早く過ぎ去ってほしいと秋を待ち望んでいましたが、陽が暮れるのが早くなると、なんだか焦燥感に襲われるのは不思議なものです。
日常を営む中で、日の長い夏のうちはまだ明るいからと、無意識のうちに心にゆとりを持てていたのかもしれません。
ちょっぴり早く1日を始めて、暗くなった空に怖気つかず得した気分になれるような秋を過ごしたいです。
Vol.221『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』
☆3.7/☆5.0
カラダから生み出されるのは、希望か?罪か?
そう遠くない未来。人工的な環境に適応するよう進化し続けた人類は、生物学的構造の変容を遂げ痛みの感覚も消えた。
“加速進化症候群”のアーティスト・ソールが体内に生み出す新たな臓器に、パートナーのカプリースがタトゥーを施し摘出するショーは、チケットが完売するほど人気を呼んでいた。
しかし、政府は人類の誤った進化と暴走を監視するため“臓器登録所”を設立。特にソールには強い関心を持っていた。
そんな彼のもとに、生前プラスチックを食べていたという遺体が持ち込まれる…。
『クラッシュ』『イグジステンズ』『ヒストリー・オブ・バイオレンス』など数々の受賞歴と共に物議をかもしてきた映画作家デヴィッド・クローネンバーグ。第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、退出者が続出した賛否両論の問題作がいよいよ日本公開。
主演は『グリーンブック』のヴィゴ・モーテンセン。自身のカラダから臓器を生み出すアーティスト・ソールを演じ、パートナーのカプリースには『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のレア・セドゥ。二人を監視する政府機関のティムリンに『スペンサー ダイアナの決意』のクリステン・スチュワートという豪華キャストが揃いました。
舞台は、痛みの感覚や感染症といったものが一切なくなった遠い未来の世界。限られた人間のみが痛みを感じる能力を持ち、中には寝心地が悪そうなベッドの様な機械と人体を直接接続させて制御するバイオテクノロジーを用いながら、体内で新たな臓器が生み出すことが出来る“加速進化症候群”という症状を持つ者がいた。
痛覚を失ったことにより命を証明するかの様に過激な人体改造パフォーマンスが人気を博し、ソールとカプリースはソールの体内で育った新しい臓器をカプリースが観客の前で取り出してみせるというグロテスクで過激なショーを行うのです。
もし人間が痛みを感じなくなったら…?というごくシンプルなテーマを掲げながら、クローネンバーグ監督は未来人なのではと疑うほどの見事なアイデアと複雑で繊細な美しさを持ち、何回でも哲学的なストーリーテリングで魅せるアート作品です。
人間とは創造され続ける存在であり、気候変動やテクノロジーの進化と共に人間の内なる意思が人間の身体に変化をもたらす。産み落とされた身体に依存せず、それぞれが自然に変化していく人体構造を受け入れるか否か肉体的なものへの原点回帰を果たします。
極めて独創的でユニークな視点から描かれた人類の進化についての黙想、環境を軽視して来た人類の犯した罪により異常な暑さとなってしまったこの世界で、人類の辿るこの進化が果たして正しいのか間違っているのか、自問自答しながら腹から覗く内臓の神秘に魅せられ倫理観を狂わせられるのです。
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