こんにちは、テラシマユウカです。
先日誕生日を迎え、またひとつ大人になりました。たくさんのお祝いありがとうございます!
毎年11月5日を迎えるたびに、自分よりもファンの方々の方が誕生日を楽しんでいて、とっても愛しい気持ちが溢れ出しています。
私ははやく可愛らしいおばあちゃんになりたいので、歳を重ねることがそんなに憂鬱なものでもありません。老後に自分がどのように過ごしているか、日本がどんな風になっているか、楽しみで仕方ありません。
Vol.229『理想郷』
☆4.1/☆5.0
フランス人夫婦アントワーヌとオルガはスローライフに夢を抱き、緑豊かな山岳地帯スペイン・ガリシア地方の小さな村に移住する。しかし、ある出来事をきっかけに地元の村人たちと敵対関係が激化していき……。
ヴェネチア国際映画祭で高く評価された前作『おもかげ』(19)で新たな才能として名を知らしめた新鋭ロドリゴ・ソロゴイェン監督が、1997年にスペインの小さな村サントアラに移住したオランダ人夫婦マーティンとマルゴに起きた実際の事件をベースに映画化。
フランスからスペインの田舎へ移住してきた夫婦は畑仕事をしつつ、古民家を修復して村おこしにつなげようとしている。だが、風力発電の開発に反対したことで、アントワーヌは補償金を求める村人たちと対立し、特にシャンとローレンという兄弟との仲が険悪になる。アントワーヌに対する兄弟の嫌がらせはやがて犯罪レベルにまで達し、両者の対立は命の危険すら感じさせるものになっていく……。
学のあるアントワーヌの思い描く村おこしの計画は確かに理想的。しかし、生まれた頃から衰退していく一方の故郷に希望を感じなくなってしまった村の人々にとって、外部の者の提案はきっと綺麗事にしか聞こえないだろう。
そんな風に“田舎と都会の対立”という題材を、人間の暗部に潜む独りよがりな思考、憎悪、凶暴性に深く迫り描き出す。観客はいつの間にかガリシアの村に引きずりこまれるような緊張感漂う心理スリラーを体験することになります。また、女性の精神的な強さと揺るぎない愛の深さも大胆に描いており、計算しつくされた様々な対比、伏線、カメラワークが生かされた重厚感ある傑作がここに誕生しました。
第35回東京国際映画祭にて最優秀作品賞にあたる東京グランプリのほか、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞の主要3部門を獲得し、並はずれた傑作と絶賛された話題作。同映画祭史上、東京グランプリと最優秀男優賞のダブル受賞をしたのは『最強のふたり』(11)以来の快挙となった。第37回ゴヤ賞で最優秀映画賞、最優秀監督賞など主要9部門受賞し、スペインで2022年に公開された独立映画の興行収入1位を獲得。その後も第48回セザール賞で最優秀外国映画賞をはじめ、世界で56もの賞を獲得するなど好評を博しました。
基となったこの実際の事件は、発覚から裁判が終わるまでの間多くの新聞が報道するなどスペイン全土に衝撃を与え、2016年には、妻のマルゴがナレーションを務めたドキュメンタリー『サントアラ』が制作される程となっています。
本作は二部構成となっており、一部では夫のアントワーヌが、二部では残された妻マルゴが中心になる。この構成が実に巧妙であり、アントワーヌと村の兄弟の険悪な関係性の行末を見守ることになるだろうと予測しながら鑑賞する。しかし、あるきっかけから映画のジャンルは変わり、女性の自立や母と娘の関係性など別のテーマが突然浮かび上がる。そんな構成によってソロゴイェン監督は、男性と女性の独自の視点から事件を掘り下げる。視点の変化によって単なるスリラーだけではなくラブストーリーとしての側面も描かれることとなります。
描かれる場所こそスペインではありますが、日本や他の国の都会と田舎、分断が深まる現代社会においての縮図のようなテーマであり、『理想郷』という言葉を覆う混沌とした空気と息苦しい緊張感に得体の知れなさを感じるのです。
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