こんにちは、テラシマユウカです。
「良いお年を。」と言葉にする機会が増えてきました。関西での今年最後のライブも終わり、久しぶりに実家へ帰省しましたが最寄駅からさらにバスに乗って家へむかう道中の懐かしさに浸っています。
必要ないくらいの間隔で小刻みに存在するバス停に、ずっと窓からの景色を確認して自分の降りる場所と停車ボタンを押すタイミングに学生時代から変わらずドキドキしてしまいます。
Vol.232『シチリア・サマー』
☆4.3/☆5.0
https://movies.shochiku.co.jp/sicilysummer/
1982年、初夏の日差しが降りそそぐイタリア・シチリア島。バイク同士でぶつかり、気絶して息もできなくなった17歳のジャンニに駆け寄ったのは、16歳のニーノ。
育ちも性格もまるで異なる2人は一瞬で惹かれあい、友情は瞬く間に激しい恋へと変化していく。2人で打ち上げた花火、飛び込んだ冷たい泉、秘密の約束。だが、そんなかけがえのない時間は、ある日突然終わることに──。
イタリアで公開されるや、アカデミー賞4部門にノミネートされた『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督が大絶賛し、名匠ナンニ・モレッティ監督も映画館へ駆けつけたという話題作。本国で劇場公開されると瞬く間に高評価の口コミが広がり、1ヵ月で国内興収は100万ユーロを突破するという爆発的大ヒットを記録しました。
揺れる初夏の光、溢れだす想い、一瞬たりとも忘れられない、2人の少年の初恋の記憶。あの日あの時の初恋の喜びと痛みを、観る者の胸に鮮やかに蘇らせる、最高純度の実話ラブストーリー。『シチリア・サマー』のビジュアルを目にした時、美しい少年たちの恋物語を想像しますが、そんな考えとは真逆の物語が始まってしまうのです。
何よりも驚くのは、この物語が1980年にシチリアで実際に起きた同性愛者殺人事件に基づいているということ。愛し合う2人の若者の命が奪われたその事件は当時のイタリアを震撼させた。西ヨーロッパの保守的な国のひとつでありLGBTQの権利が近隣諸国に比べて進んでいないイタリア全土に及ぶ同性愛権利運動のきっかけとなり、今日まで活動を続ける団体設立に至るのです。
監督は、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『シチリア!シチリア!』などに出演し、イタリアで俳優として活躍しているジュゼッペ・フィオレッロ。今作が初の長編映画監督作となる。
ニーノを演じるのは、ガブリエーレ・ピッツーロ。5歳で舞台デビューを果たし、本作が初の映画出演作となります。ジャンニには、8歳からヒップホップとモダンダンスを始め、ダンサーとしても高い人気を誇るサムエーレ・セグレート。数百人もが参加したオーディションから選び抜かれた人気急上昇中の新人スターであり、本国最古の映画賞で新人監督賞&俳優賞のW受賞に輝きました。
ニーノとジャンニが出会い惹かれあい、ふたりが過ごす時間はとても幸せで、このまま共に歳を重ね大人になっていくのだろうと、シチリアの美しい自然や光の当たり方がそう演出する。ですが、家父長制やカトリックがいまだに色濃く残るイタリアの田舎で同性愛者だと知れ渡ってしまった彼らに対する扱いはひどく、幸せだけどどこかずっと不穏で、綺麗な映像と対して重ためのシーンがより強く突き刺さる事に。
感情の上げ下げと始まりと終わりの構成が憎いほど上手く、酷く叩き落とされるような残酷なラストに身構える準備も整わないままダメージを受けその衝撃は一生忘れることはできません。
純粋に愛し合った2人の若者がイタリアを、そして世界を変え、40年の時を経てついに映画化されました。しかし、事実を残酷なまでに鮮明に描いただけではなく、命が奪われないと何も変わらないという現代を生きる私たちへの問題提起を投げかける作品でもありました。マイノリティの犠牲によって社会が変わるのではなく、大勢の責任によって変えなければいけない価値観があるということに打ちのめされ、思考を巡らせ、印象的な後味が残り続けていきます。
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