テラシマユウカの映画コラム Vol.244『瞳をとじて』

こんにちは、テラシマユウカです。

春の陽気を感じ始める気温となり、まだ2月なのに。と季節においていかれてしまった気分になるこの頃。

毎年四季の移り変わりを感じるたびに、昨年はどのタイミングでこの感情になっただろうと記憶の答え合わせをしたくなります。

年々あったかくなったと気づくタイミングが早くなっているように思いますが、それは気のせいなのでしょうか。

Vol.244『瞳をとじて』

☆4.2/☆5.0

1985年、伝説のミニシアター“シネ・ヴィヴァン・六本木”で記録的な動員を打ち立て社会現象を巻き起こし、今もなおタイムレスな名作として多くの映画ファンの「人生ベスト」に選ばれる『ミツバチのささやき』のビクトル・エリセ監督が、第76回カンヌ国際映画祭で31年ぶりの長編新作を発表。

長い沈黙を破り描かれるのは元映画監督と、謎の失踪を遂げたかつての人気俳優ふたりの、記憶をめぐる【人生】と【映画】の物語。

『ミツバチのささやき』で見出されたアナ・トレントが50年ぶりに同じく“アナ”の名前を持つ女性を演じることも話題となっています。これまでの不在を微塵も感じさせない詩情豊かに綴られるワンシーン・ワンカット、そしてラストに待ち受ける映画の始まりと未来を繋ぐ、圧倒的映画体験。

物語は『瞳をとじて』の映画の中で制作された映画『別れのまなざし』のシーンから、映画の中で映画を語るという劇中劇の構造で始まります。映画をとりまく環境とその変化、そして映画というメディアについて描き、失踪した俳優を追いながら物語が進むにつれて真相が明かされていくミステリー要素も含まれています。

ミゲルが親友のフリオを探して過去と記憶を辿るストーリーは、まるで長い旅に出ているかのような深くゆったりとした時間が流れ、映画表現とは常に時間と記憶に宿っていると、表情や風景描写、思考など様々な場面でまなざしと共に真っ直ぐに語りかけてくる。

過去作の記憶から、今まさに映されているシーンやその前後まで、この映画のテーマである「記憶」に従順であり計算し尽くされたすべてが2時間49分という長編に込められ、このミゲルにとっての一生分の物語の結末は、鑑賞直後にはぼんやりとしている。しかし、
なぜだか後からじんわりと腑に落ちてく心地よい余韻にただ解決を示さず身を委ねていたいと願ってしまうのです。

ノスタルジックな雰囲気の映画だか、あえてフィルムではなくデジタルで撮影した監督の意図に、フィルムの良さは残したままに古臭さを感じさせず、現代においての映画にも影響を与える希望も感じさせる作品でした。

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