こんにちは、テラシマユウカです。
無事、ロンドンの旅から帰国しました。
大英博物館が特に素晴らしく、知的好奇心が満たされる場所でした。あまりにも広い施設なので、ギリシャ、ローマ、エジプトのブースを主にみてまわり、ひとつひとつの展示に見惚れて立ち尽くしてしまうくらいの感動で時間の許す限り入り浸っていましたが、後ろ髪を引かれる思いで博物館を後にしました。
ウェストミンスター寺院もビッグベンも圧巻で、目がおかしくなるくらいの細やかな構造はため息が溢れてしまうほど美しい建築でした。
初めてのロンドン、滞在期間は短かったですが貴重な経験をできる最高の旅でした。
Vol.250『オッペンハイマー』
☆4.3/☆5.0
第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。これに参加した J・ロバート・オッペンハイマーは優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。しかし原爆が実戦で投下されると、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、オッペンハイマーはのまれてゆくのだった―。世界の運命を握ったオッペンハイマーの栄光と没落、その生涯とは。今を生きる私たちに、物語は問いかける。
『ダークナイト』『TENET テネット』などの大作を送り出してきたクリストファー・ノーラン監督が、原子爆弾の開発に成功したことで「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材に描いた歴史映画。2006年にピュリッツァー賞を受賞した、カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるノンフィクション『オッペンハイマー「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』を原作とし、オッペンハイマーの栄光と挫折、苦悩と葛藤を実話に基づき描く。
本作は2023年7月の全米公開を皮切りに、世界興収10億ドルに迫る世界的大ヒットを記録。実在の人物を描いた伝記映画としては歴代1位となっている。また、第81回ゴールデングローブ賞にて作品賞含む最多5部門を受賞、第96回アカデミー賞では、クリストファー・ノーラン初の作品賞、監督賞ほか、主演男優賞(キリアン・マーフィー)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、撮影賞(ホイテ・ヴァン・ホイテマ)、編集賞(ジェニファー・レイム)、作曲賞(ルドウィグ・ゴランソン)の最多7部門受賞を果たしました。
オッペンハイマー役を演じるのは、これまでも『インセプション』などでクリストファー・ノーラン監督作品に出演してきたキリアン・マーフィー。また、彼の妻・キティ役を演じるのはエミリー・ブラント、オッペンハイマーと対立する原子力委員会委員長のルイス・ストローズ役にロバート・ダウニー・Jr.。また、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネットらが、ノーラン作品に初参加。『インターステラー』のマット・デイモンや、『ダンケルク』のケネス・ブラナー、さらにラミ・マレック、ケイシー・アフレックなどのアカデミー賞受賞俳優陣が豪華共演。撮影は『インターステラー』以降のノーラン作品を手がけているホイテ・ヴァン・ホイテマ、音楽は『TENET テネット』のルドウィグ・ゴランソン。
クリストファー・ノーラン監督作品ならではの映画館でしか感じ取られない映像体験はもちろん今回も健在であり、本作の為だけに開発された65ミリカメラ用モノクロフィルムを使用して史上初のIMAXモノクロアナログ撮影を実現した映像は、IMAXを極限まで効果的に利用しスクリーンから全身に浴びるように歴史を受け止めることになります。
オッペンハイマーの生涯を事実に基づいて時間軸を行き来しながら描き、
・彼が原爆を完成させるまでの過去
・1954年のオッペンハイマーの聴聞会
・1959年のストローズの公聴会
主にこの3つが目まぐるしく入れ替わっていきます。『メメント』や『TENET テネット』などでも見られた時間軸の操作ではありますが、それに加えてカラーとモノクロの2つの映像によって視点が分けられており、カラーのパートは物語の大半を占めるオッペンハイマー自身の視点、モノクロパートはロバート・ダウニー・Jr.演じる原子力委員会委員長でもあるルイス・ストローズの視点として使い分けられています。
時間軸の交錯と視覚的な違いによって作品を単純にせず直感的にすぐ理解できないものへと演出し、繰り返し鑑賞することで思考を深めていくノーランらしい作品となっています。
原爆という題材とバーベンハイマーをめぐるSNS上での騒動などもあり、日本では公開前から懸念点も多く抱えていた作品でしたが、あくまでシンプルにオッペンハイマーの視点で描いた史実であり、原爆投下のシーンは描かれず、マンハッタン計画開始から原爆投下の時代よりもオッペンハイマーが戦後の赤狩りに巻き込まれた描写に時間を割いていた為、予想とは違った作品に仕上がっていました。
事実の軽視や美化など公開前の懸念点は作品に大きくは見られなかったとはいえ、”Japan”という単語が聞こえるたびに胸を締め付けられる体験はこれまでになかったもので、映画の体験において怒りや悲しみを抱くことはあることですが、”日本人”であるが故にその感情を抱くというのは形容し難い感覚でした。
撮影・編集・映像、そのクオリティはどこを切り取っても最高レベルの素晴らしいもので、そのためにマンハッタン計画実験成功のシーンや人々が原爆を完成させた成功者オッペンハイマーを賞賛するシーンは、ノーラン監督の手腕を憎んでしまうほど衝撃的な擬似体験を目撃することになりトラウマとしてこの恐怖を一生植え付けられて生きていくこととなるのです。
米国側の視点、価値観によってつくられた映画をみて日本人としてどう受け止めるか様々な意見が飛び出してくるのは当然であり、重要な議論のきっかけとして今我々が知らなければならない事実が詰まった貴重な一作でした。
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