こんにちは、テラシマユウカです。
歳を重ねるほど、SNSで得る情報を厳選していくようになってきた気がしますが、その取捨選択が正しいのか疑問を抱く瞬間も少なからず存在します。
Xでの個人の閲覧の傾向を把握されたおすすめツイートや、トレンドにあがった話題のテーマなど、自分で選んでいるように感じていても実際得る情報はみな似たり寄ったりで、例えば新聞のちいさな記事など、実は重要なことに目を向けられず見逃しているかもしれないと感じます。
Vol.260『あんのこと』
☆4.3/☆5.0
21歳の主人公・杏は、幼い頃から母親に暴力を振るわれ、十代半ばから売春を強いられて、過酷な人生を送ってきた。ある日、覚醒剤使用容疑で取り調べを受けた彼女は、多々羅という変わった刑事と出会う。
大人を信用したことのない杏だが、なんの見返りも求めず就職を支援し、ありのままを受け入れてくれる多々羅に、次第に心を開いていく。
週刊誌記者の桐野は、「多々羅が薬物更生者の自助グループを私物化し、参加者の女性に関係を強いている」というリークを得て、慎重に取材を進めていた。ちょうどその頃、新型コロナウイルスが出現。杏がやっと手にした居場所や人とのつながりは、あっという間に失われてしまう。行く手を閉ざされ、孤立して苦しむ杏。そんなある朝、身を寄せていたシェルターの隣人から思いがけない頼みごとをされる──。
ある1人の少女の壮絶な人生をつづった2020年6月の新聞記事。その実話に着想を得て、『SRサイタマノラッパー』シリーズや『AI崩壊』の入江悠監督が映像化。
主演を務めるのは19年のデビュー以来、数多の映画賞に輝き、『PLAN75』『少女は卒業しない』などのほか、2024年のTBSドラマ『不適切にもほどがある!』の出演でも話題を呼んだ河合優実。虐待やドラッグに体を蝕まれ、底辺から抜け出そうともがく主人公・杏を演じる。
また、杏に更正の道を開こうとするベテラン刑事に佐藤二朗。2人を取材するジャーナリストに稲垣吾郎と、実力派が脇を固めました。
実話ベースに作られた本作はコロナ禍を描いたつい最近の出来事。そのウイルスは多くの人生の歯車を狂わせ、不幸をもたらしたが、『あんのこと』で描かれるコロナはひとつのきっかけに過ぎず、原因であるとは言えない。
テレビやSNSで日々、目を逸らしたくなるようなニュースが飛び込み心を痛めていたとしても、メディアが報じなくなれば視聴者の関心は悲しくも薄れてしまう。コロナ禍の誰もが必死に生きようとする世相では、杏のような出来事は多くの記事の中のひとつとして片付けられてしまったが、映画として記録に残すことで声を上げ、この事は絶対に忘れてはならないという作り手の張り詰めた思いも汲み取れる。
杏という女性を通し、この社会の取り巻く環境の歪みを容赦なく突きつけ、そして同時に、単なる社会派ドラマの枠を超えて、杏の意志や彼女の過ごした時間を切り取り、「生きる」ということに迫った物語でもあります。
映画は現実だとは信じたくないほど耐え難い事実を映し出す。そんな中でも、杏自身が幸せを感じた美しい瞬間も描き出す。はっとする様に伝える河合優実の熱演に心打たれ、社会から見放された杏は言葉少ないが、内に秘めた想いを言語化せずとも表情や眼差しで訴える彼女の信念を感じ取る。そして静かに、杏が確かに我々のそばに存在したのだと、観客に訴えかけるのです。
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「みんなの遊び場」をコンセプトに活動する、テラシマユウカ、ヤ