こんにちは、テラシマユウカです。
理解したくても到底及ばない物事というのは人生においてたくさん存在し、そう言ったことに出会うたびにもどかしい気持ちに陥ってしまいます。
ですが、そういうもどかしさに一本取られたと気持ちよさを感じる瞬間もあり、クリストファー・ノーラン監督の映画には幾度となく理解したくても及ばない体験をさせてもらってきました。
今週はそんな、天才が天才たる所以である彼の長編デビュー作品をご紹介します。
Vol.253『フォロウィング 25周年/HDレストア版』
☆4.5/☆5.0
作家志望の男ビルは、創作のヒントを得るため、通りすがりの人々のあとをつける行為を繰り返していた。ある日、ビルがいつものように男をつけていると、尾行していることがその男、コッブにバレてしまう。だが、コッブもまた、他人のアパートに不法に侵入し、私生活を覗き見る行為に取りつかれていた。ビルは次第にコッブに感化されていく。数日後、ビルはコッブと二人で侵入したアパートで見た写真の女性に興味を抱く。やがて、彼女の尾行を始めるビルだったが、その日を境に、彼は思わぬ事件に巻き込まれていく……。
クリストファー・ノーラン監督のすべてが詰まった、幻のデビュー作『フォロウィング』。ロッテルダム映画祭をはじめ数多くの映画祭で賞を受賞し、ノーランの才能を一躍世界に知らしめた。
未来から過去へと時間軸を逆向きに映し出した『メメント』。アメコミ映画の新時代を切り開き、数々の伝説を打ち立てた『ダークナイト』シリーズ。夢の中を映像化し、観る者の度肝を抜いた『インセプション』。五次元の宇宙空間を創り上げた『インターステラー』。時間が逆行する世界を描き未知なる映像体験へ誘う『TENET テネット』。
誰も観たことのない映像を0から生み出す才能で、常に新たな“体験”を放つノーラン。過去から未来、未来から過去へと交差する時間軸で紡がれる本作は、世界中で絶賛されたこれまでの作品以上に複雑な構成となっており、ノーランの魅力すべてが詰まった傑作であり、伝説の壮絶な始まりである。
ノーランの作品を観る際には、「油断してはならない。」という感情になる。そして、どれだけ身構えようとも裏切られ、我々の想像では敵わない展開を繰り広げてくれるという信頼がある。デビュー作であろうと天才は最初から天才であることを目撃させられ、映画の作り方が今のようになる前で低予算で作られた本作は近年の彼の作品よりは分かりやすい気がしたが、違和感と疑問を残して終わっていく。
本作の違和感というものは、従来のミステリーやサスペンス的である謎が提示されそこから解決を導き出すのではなく、そもそも「謎」がなんなのか分からないという点にある。
螺旋のように時間が交差して進んでいく面白さと、分裂して配置された映像が次第にパズルのようにはまっていく爽快感が素晴らしい。映画が始まって長い時間把握できなかった全体像が唐突にすべて理解できるようになる瞬間が来るように緻密な脚本で構成されているのです。
冒頭からカッコいい劇伴とモノクロームの映像の質感に、70分という短尺に収めたスタイリッシュな物語と色気のある登場人物たちに魅了され、今どの時間軸に存在しているのかと思考し没頭する味わい深さは一級品。
運命を狂わす危険な好奇心と張り巡らされた策謀、謎と解決が同時に浮かび上がってくる構成に、全てを知った上でもう一度この謎に飛び込みたいと願ってしまう、企みに満ちたスリリングな快作です。
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